20130422Fuji1

エクセルのグラフで学ぶ気象学0043


エマグラムの利用法 (4)

 今回も引き続きエマグラムを用いて、空気塊の高度が上下する際の状態変化を調べる。その前に、混合比について補足する。混合比は、水蒸気の密度と乾燥空気の密度の比、あるいは水蒸気の質量と乾燥空気の質量の比として定義される。外部と熱や水蒸気の出入りのない空気塊では、水蒸気の凝結が生じなければ混合比は保存される(変化しない)。一方、空気塊の高度が上昇して水蒸気の一部が凝結すると、混合比は減少する。しかし水蒸気の一部に凝結が生じても、凝結した水が降水として空気塊から排出されなければ、再び空気塊が下降した際には、もとの混合比に戻る。

 このような混合比の復元性を考慮するには、凝結した水分をも含めた総混合比(Total water mixing ratio)rT.jpg"を考える必要がある。総混合比は、たとえ水蒸気の一部が凝結したとしても、空気塊の外部との間で水分の移動がない限り保存される。そして、空気塊内にとどまっている水分混合比をrL.jpg"とすると、これらの量と飽和混合比rs.jpg"との間には以下の関係がある。

rT2.jpg"

 これまで、空気塊が断熱的に上昇、下降する状態を考えてきたが、空気塊には非断熱的な作用も働く。空気塊の最上部の数㎝の部分は、上空に向けての赤外放射あるいは長波放射によって、熱が奪われ温度が低下する。空気塊は太陽光からの太陽放射を受けているが、大気が可視光線に対してほとんど透明であることから、日中においても、空気塊の上部における太陽光線による加熱はわずかである。

 夜間になると、空気塊の最上部の数㎝の部分では赤外放射による温度の低下が進行し、温度が低下した空気は、空気塊の内部で沈降する。これによって、空気塊内部の空気が撹拌され、空気塊全体の温度が低下する。

 今回は、これまでのように上昇した空気塊上部で、非断熱的な冷却が生じた後、再び空気塊が下降した場合の大気の状態変化について調べてみよう。初期状態と、途中までの条件は、エマグラムの利用法(1)、(2)で扱った空気塊と同様とする。すなわち、高度900 hPaで気温20 ℃、露点温度6 ℃の空気塊が、持ち上げ凝結高度を経て500 hPaまで上昇するものとする。そして、空気塊の水分のうち、混合比で 2.5 g/kg 分の水分が空気塊の外に降水として排出され、空気塊の最上部における赤外放射によって空気塊全体の温度が10 ℃下降したとする。この空気塊が再び高度900 hPaまで下降したときの温度と相対湿度を、エマグラムを使って求めてみよう

ThermoDiagram08.jpg"

 初期状態では900 hPaの気温が20 ℃、露点温度が6 ℃であることから、この空気塊の飽和混合比は17 g/kg、混合比は6.5 g/kgである。ここから空気塊が上昇すると、乾燥断熱線に沿って空気塊の温度は低下し、約725 hPaの高度で、空気塊は水蒸気で飽和する。この空気塊がさらに上昇すると、空気塊の温度は湿潤断熱線に沿って低下し、500 hPaの高度では、温度と露点温度がともに-13 ℃となり、飽和混合比は3.0 g/kgまで低下する。

 この時点で総混合比6.5 g/kg中、飽和混合比が3.0 g/kgであり、水分混合比は3.5 g/kgとなるが、そのうち2.5 g/kg の水分が空気塊の外部に降水として排出される。したがって、総混合比は4.0 g/kgとなる。

ThermoDiagram12.jpg"

 その後、500 hPaの高度で、赤外放射によって空気塊の温度が10 ℃低下すると、上の図に示すように温度は-23 ℃、飽和混合比は約1.25 g/kgとなる。総混合比が4.0 g/kgであることから、水分混合比は2.75 g/kgとなるが、この水分は空気塊から排出されずにとどまるものとする。

ThermoDiagram13.jpg"

 この条件で、500 hPaにある空気塊が高度を下げると、凝結した水分が水蒸気となりながら、4.0 g/kgの等飽和混合比線と交差する点まで、湿潤断熱線に沿って温度が上昇する。4.0 g/kgの等飽和混合比線と交差した位置が、この空気塊の持ち上げ凝結高度になるが、それは高度が上昇したときの持ち上げ凝結高度とほぼ等しく、約725 hPaである。降水と赤外放射による冷却という非可逆過程を経ているのに、持ち上げ凝結高度が元と同じ値となったのは偶然である。持ち上げ凝結高度における空気塊の温度は約-4 ℃で、上昇時の約3 ℃から約7 ℃低下している。

 この後は、空気塊の温度は乾燥断熱線に沿って上昇する。この空気塊が900 hPaまで下降したところでは、温度は約12 ℃となり、その点での飽和混合比は10 g/kgである。一方この空気塊の混合比は4 g/kgであり、900 hPaでの露点温度は約-1 ℃(-0.8 ℃)となる。したがって、この時の相対湿度は4/10*100=40 %となる。

ThermoDiagram14.jpg"

 このようにして、最終的な空気塊の温度は、初期状態から約8 ℃低下し、露点温度は約7 ℃低下し、相対湿度は2 %上昇したことになる。また、500 hPaで赤外放射による冷却が生じなかったときと比べると、最終状態の温度は17 ℃低く、相対湿度は27 %高くなっている。

(2011.4.13)


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