ショワルター安定指数(SSI)
大気の安定度を示す指数には様々なものがあるが、ショワルター安定指数(Showalter Stability Index)は、雷雨の発生の予測精度が高いものとして知られている。ただ、実務的な色彩が強いからか、アーレンやシュトゥールの教科書では触れられていないようだ。
この安定指数は、名前が冠されているアルバート・ショワルター(Albert K. Showalter)が1947年に発表したもので、850 hPaにある空気塊を500 hPaまで断熱上昇させたときの温度を用いて、[ショワルター安定指数]=[500 hPaの周囲の温度]-[850 hPaにある空気塊を500 hPaまで断熱上昇させたときの温度]、で示される。通常、単位を付さない整数で示されるが、℃やKの単位を付すこともあるようだ。
ショワルター安定指数が負の値となる場合は、850 hPaから持ち上げられた空気塊の温度の方が、元から500 hPaにあった大気の温度より高いことを意味し、空気塊の方が周辺の大気より軽いことになる。したがって、空気塊は上向きの浮力を受けて上昇を続けることから、この大気は不安定である。
ショワルター安定指数は、エマグラムを用いて求めることができる。空気塊を850 hPaから持ち上げる際、空気塊が水蒸気で未飽和の間は乾燥断熱線に沿って上昇させ、水蒸気で飽和した点から上空に向けては湿潤断熱線に沿って上昇させる。
下に示すのは、850 hPaの大気の相対湿度が比較的高い例である。850 hPaでの気温は約20.5 ℃、露点温度は約18.5 ℃で、湿数は2.0 ℃である。それぞれの点の混合比は約18.5 g/kgと約16.0 g/kgであり、相対湿度は約86 %となる。850 hPaの空気塊を乾燥断熱線に沿って上昇させると、約825 hPaで、この乾燥断熱線と16.0 g/kgの等飽和混合比線とが交わり空気塊は水蒸気で飽和するため、この点から上空へは湿潤断熱線に沿って上昇させる。その湿潤断熱線は、湿球温位が25 ℃の線である。この湿潤断熱線は、500 hPaの高度では-3.0 ℃の点を通過している。
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一方、気温の状態曲線は、500 hPaで-7.0 ℃を通過していることから、ショワルター安定指数SSIは、SSI=(-7) - (-3) = -4 となる。
次に示す例は、850 hPaの大気の相対湿度が比較的低く、乾燥している例である。850 hPaでの気温は約17.5 ℃、露点温度は約9 ℃で、湿数は8.5 ℃となる。それぞれの点の混合比は約15.0 g/kgと約8.5 g/kgであり、相対湿度は約57 %である。850 hPaの空気塊を乾燥断熱線に沿って上昇させると、約750 hPaで、この乾燥断熱線と8.5 g/kgの等飽和混合比線とが交わり空気塊は水蒸気で飽和するため、この点から上空へは湿潤断熱線に沿って上昇させる。その湿潤断熱線は、湿球温位が17 ℃の線である。この湿潤断熱線は、500 hPaの高度では-11.0 ℃の点を通過している。
一方、気温の状態曲線は、500 hPaで-6.0 ℃を通過していることから、ショワルター安定指数 SSIは、SSI=(-6) - (-11) = 5 となる。
このように、ショワルター安定指数は、850 hPaにおける相対湿度と500 hPaにおける大気温度が大きく影響する指数である。そして、以下のような判断基準がある。
ショワルター安定指数値 |
予想される気象現象 |
+3以上
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雷雨の可能性は低い
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+1~+3
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弱い雷雨があるかもしれない 激しい雷雨は予想されない |
-3~0
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激しい雷雨があるかもしれない
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-6~ー4
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激しい雷雨が予想される
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-6以下
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猛烈な雷雨が起こる可能性が高い
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