20130524Fuji1

エクセルのグラフで学ぶ気象学0051


沈降逆転層

 安定した大気とは、上空に向かって温度の減率(気温減率)が小さくなっている状態である。すなわち、地上の気温と上空の気温の差が小さい状態である。したがって、上空に暖気がある時や地上が冷え込んでいる時には、大気が安定した状態である。地上の気温が変化していない場合でも、上空に暖気が流れ込むと気温減率は低下し、大気は安定した状態となる。一方、上空の大気の状態が変化しなくても、地上の気温が下がれば大気は安定した状態となる。

 これらの、大気を安定化させる条件を箇条書きとすると、以下の通りである。

1)夜間の放射冷却によって、地表近くの気温が低下する。
2)地表近くに、寒冷な風が吹き込み、地表近くの気温が低下する。
3)地表面の温度が低い地域に、大気全体が流入する。

 一般的な気象条件では、日の出前に最低気温が観測されることから、その頃の大気が最も安定な状態にある。その一方で、このような安定な待機状態では、対流活動が不活発であるため、地表面に霧や汚染物質が滞留することも多くなる。

 これとは別の機構で大気が安定状態になる場合がある。それは、高層の大気の層全体が沈降する場合である。未飽和の大気の気温は、沈降に伴い乾燥断熱減率にしたがって気温が上昇する。その様子を、これまで作成してきたエクセルのグラフを利用して模式化した図を以下に示す。

SubsidenceInversion.jpg"

 上の図で、黒い曲線は高層気象観測によって得られた気温を模式的に示したものである。400 hPaで-32 ℃、500 hPaで-24 ℃と8 ℃の100 hPaの高度差で-8 ℃の温度差がある気層となっている。この気層が未飽和であるとすると、その気圧と気温を通る乾燥断熱線に沿って、高度低下とともに空気塊の気温は上昇する。以前作成した乾燥断熱線を計算する式を用いて、その付近を通る乾燥断熱線を引いた。その計算結果を以下に示す。

SubsidenceInversion2.jpg"

 沈降以前に500 hPaにあった気層が地表まで沈降すると、気温は約30 ℃となる。一方、沈降以前に400 hPaにあった気層が900 hPaまで沈降すると、その気温は約32 ℃となっている。地表近くまで沈降したことにより、-8 ℃の温度差が+2 ℃の温度差となり、上層の気温の方が高くなった。このようにして、上空の気温の方が高い逆転層が形成されたことになる。

 このような経緯で生じた逆転層を、「沈降逆転層(subsidence inversion layer」という。沈降逆転層は、このように地表面近くで発生することもあるが、多くの場合は、下降気流のある高気圧に覆われた場所で、もっと上空で発生することが多い。

 逆転層は、上昇気流を抑える蓋の役割を果たすことから、逆転層を境に大気は安定化する。なぜなら、下層から上昇してきた空気塊は、上昇することによって気温が低下するが、周囲の気温がそれより高くなるため、浮力を失うからである。

(2011.4.21)


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