オーム社の気象予報士試験 標準テキスト 学科編 補説01


乾燥断熱変化と温位

 オーム社の気象予報士試験 標準テキスト実技編は、良書だが「誤字・脱字が多く、専門用語を間違うのは致命的だろう」、とか、「誤植がとりわけ図の番号や説明に多いのも読みづらさに輪をかけている」といった評価がアマゾンのサイトに掲載されている。そこで、さっそくその学科編と実技編を購入し、読み進めながら検証してみることにした。

 読み始めて感じたのは、学習書というより、すでに学んだことを整理するような書き方だということだった。この本だけで独習するのはかなり厳しいように感じられた。

 以下、平成22年10月26日にアマゾンから購入した、平成21年11月25日の第1版第刷発行の書籍を読み進めながら、気付いた点を挙げてみる。

 第1編は「学科試験の内容」、第2編は「受験のための勉強の仕方」、第3編が「学科試験のポイント(総論)」であり、これらはとりあえず読み飛ばした。

 本論は、第4編の「学科試験のポイント(各論)」からで、その第1章「学科一般知識(その1:気象学の基礎)」から読んでみることにした。

 最初は4-1.1「太陽系の概要および惑星としての地球」であるが、この節の最後に単位と次元がまとめて示されている。式や計算が一切現れないうちに、単位系の知識を整理している。単位や次元に付いてはすでに学んでいることが前提だということが、ここで分かる。あくまでもすでに学習を積んだ人が、学習のポイントをまとめるための本と感じた。

 続いて4-1.2「地球大気の鉛直構造」と入っていく。これもずいぶん簡単な説明で終わり、すでにこれらの知識を十分得ている方々の知識の整理用という感じがした。そこで、学ぶのではなく、整理するという読み方をしなければならないことに気付かされる。

 そして、4-1.3が「大気の熱力学」である。ここから数式が出てきて、数式が苦手な人は読み進めにくくなる。

 P.32の4-1.3.3「乾燥断熱変化と温位」になると、一気に難しくなる。まず、(3.4)式が間違っている。
 

Equation3-4.jpg.jpg"

とあるが、真ん中の部分が間違っている。この式は、その上の

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から導かれるとされている。当然のごとく、(3.4)式は以下のようにならねばならない。

Equation3-4-2.jpg.jpg"

 ただ、独習書であれば、

Equation3-4-3.jpg.jpg"

ぐらいの親切さがほしいものだ。こうしても行は増えない。

 (続いて変数分離をして、)

Equation3-4-4.jpg.jpg"

これから

Equation3-5.jpg.jpg"

その下に、「(空気塊の気圧変化に伴ってその値が変わらない。したがって保存される)」と書かれている。そんなものか、として読んでしまえば、それでおしまいだが、この部分は、(3・4)’式をまず次のように移項整理する。

Equation3-4-5.jpg.jpg"

両辺を積分すると、次の式が得られる。

Equation3-4-6.jpg.jpg"

右辺を積分定数のみにすると、以下の式のようになる。

Equation3-4-7.jpg.jpg"

対数の引き算は、対数内の割り算となるから、

Equation3-4-8.jpg.jpg"

対数を外して、

Equation3-4-9.jpg.jpg"

が得られる。この値が一定だから「保存される」という説明は、一般には分かり難い。「圧力が変化すると、温度は一定の関係を保って変化する。」と説明すべきである。すなわち、「気圧が変化すると気温は熱の出入りがなくても変化するが、その程度を決めるのが温位指数である」、と説明すべきだと思う。

 続いてその下に、「温位θは(乾燥)断熱変化では一定である(保存される)。」と記載されている。この表現は、気象学の本でよく目にするが、「そこで、基準となる気圧の下に基準となる温度を定め、これを温位とする。通常基準気圧は1000 hPaが選ばれる。乾燥断熱変化をしている限り、たとえ気圧が変化して、空気塊の気温が変化したとしても、その空気塊を基準気圧に引き戻した温位は変化しない。」と説明すれば、温位の意味が分かりやすいと思う。

(2010/10/30)  



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