ベクトルのドット積
これまで、ベクトルの足し算(加法・加算)と引き算(減法・減算)について説明した。ベクトルには、このほかにも掛け算(積)がある。それもドット積とクロス積の2種類の掛け算がある。初めに、ドット積(内積ともいう)について説明する。
ベクトルは、大きさだけなく方向も持った量であり、二つのベクトルの間のドット積は、それらの大きさを掛け合わせるだけでなく、それらのベクトルがどれだけ異なった方向を向いていかをも考慮している。ただ、ドット積の結果はベクトルではなく、大きさだけをもつスカラーとなる。
ドット積は、二つのベクトルの間にドット(・)を付けて表す。例えば、とのドット積はのように表す。そして通常AドットB(エー・ドット・ビー)と読む。
以下、ベクトルの加算の際に用いたベクトルの図を用いて、ドット積について説明する。ベクトルは平行移動しても値は変化しないので、との始点を座標の原点に移動する。
すると、はその終点の座標によって表され、も、その終点の座標によって表すことができる。これら二つのベクトルのドット積は、これらの成分同士を掛け合わせた上で、それらの和として定義される。これを式で表すと、以下のようになる。
この式から分かるように、二つのベクトルのドット積には方向はなく、大きさだけがあるスカラーである。
ドット積にはもう一つの定義があるが、それをベクトルを平面的に示した図で説明すると以下のようになる。
ここで、とは、それぞれとの大きさ(長さ)を示す。θは、との方向の間の角度である。この式からも、ドット積がスカラーであることが分かる。
とがともに同じ方向を向いていると、θは0となり、が1となることから、ドット積はとの大きさ(長さ)の積となる。とが逆方向を向いている場合は、が-1となり、ドット積はとの大きさ(長さ)の積の値を
負にしたものとなる。とが互いに直角の場合は、ドット積は0となる。、このようにして、二つのベクトルのドット積の値から、それらのベクトルの方向の違いを知ることができる。
ここで、ドット積の二つの定義、ととが同じ値を与えることを確かめてみよう。
最初に、特殊な例として、二つのベクトルがともにである場合を考えよう。その場合、ベクトルを成分で表して計算するドット積は、
となり、ベクトルの長さの2乗の値となる。一方、を用いた定義式でも、
となり、確かに同じ値を与える。
次に、ととの方向がθの角度をなしている場合について確かめてみよう。ベクトルの減算の中で使用した図を以下に示す。
上の図で、の終点からの終点に向かうベクトルはとなる。ここで、、とで構成される3角形に第2余弦定理を適用すると、上の図に示した関係が得られる。
一方、二つのベクトルをともにとするドット積は、分配法則を用いて以下の式のように計算されるが、このドット積の値は、の長さの2乗である。
ここで、第2余弦定理とドット積の両者によって計算したの長さの2乗を等置して整理すると、以下の式が得られる。
すなわち、ドット積は二つのベクトルの長さと、それらのベクトルの方向余弦を掛け合わせることによって得られることが示された。
(2011.8.1)
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