訳者の私的画像集68


AFTE2011 バンケット式次第

 AFTEのバンケット(晩餐会)は、会期中の木曜日の午後6時から11時までの5時間にわたる一大セレモニーである。伝統の形式を踏みながら、毎回、例年とは異なる趣向も凝らされていている。6時から7時まで1時間はカクテルパーティーで、その間に一つのテーブルに着席する仲間を探したりする。

 以前はアルコール飲料をたくさん飲めたため問題なかったが、酒類が飲めずに、英語が堪能でないと、このカクテルパーティーの時間の過ごし方は難しくなる。それぞれがキャッシュバーでドリンク類を購入するのだが、チャレンジコインを使用しておごらせることもできる。ただ、そのようなことをしている人は少ない。海外からの訪問者に対しては、黙っていてもお酒をおごってくれる場合もあろうが、そのタイミングを見てチャレンジコインを使うのもご愛嬌なのだろう。

 州ごとにテーブルを囲むのが基本で、以前はテキサス州やニューメキシコ州などでは、服装をカーボーイスタイルに統一して着席していたこともあったが、最近はスーツ姿が多くなった。女性は、華やかなパーティドレスとなる。バンケットの後半で行われる授賞式で、同一テーブルから受賞者が出ると、大いに盛り上がったりする。

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 各席には式次第が置かれている。例年は白い紙が使用されているが、AFTE2011では水色の紙に式次第が印刷されていた。表紙には、シカゴ大会のマークが印刷されている。本年は、その式次第の中に、もう1枚の式次第が挿入されていた。それは1969年2月26日にシカゴ警察で開催された会議のもので、この会議が後に第1回AFTEのシカゴ大会といわれるようになる。

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   水色の式次第も、2011年大会のことだけを記載しているものではなかった。裏表紙には、1969年2月26日の会議の出席者35名の名簿が印刷されていた。

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 中を開くと、左側のページは食事のメニューである。7時から8時までの約1時間がディナータイムで、その時のメニューである。フィレステーキがメインディッシュだったが、ベジタリアンに対してはマッシュルーム・ラヴィオリが提供された。

 右側のページには、食事を含めた式次第が印刷されている。ゲストスピーカーの名前が記載されていないが、シカゴの裁判所の判事であった。裁判に鑑定証人として出廷した際の心構えについての講演であった。講演の概要は以下のとおりである。

 鑑定証人は、科学的事柄を陪審員に分かりやすく伝える翻訳者としての役割を果たす必要があり、陪審員との意思の疎通力が求められる。陪審員に信頼感を与える立ち居振る舞いが要求され、陪審員に好まれる人となりでありたい。何といっても、自分が行った分かりやすい言葉に翻訳して陪審員に伝える力を持たなければならない。

 発言内容が科学的に筋が通っている必要があり、科学の内容を分かりやすく伝えることが重要である。裁判所内の人々の中で、鑑定内容について最も知っているのが鑑定証人であるのだから、自信をもって内容を伝えたい。その発言によって、信頼できる証人であると裁判所が決定するように導かなければならないのだから。

 「CSI:」は、分かりやすく、楽しい番組なので、科学鑑定に関する伝達力が強い。ただ、ドラマを見ているときは鑑定者に親近感を感じ協力的な感情移入をする視聴者が、一旦陪審員席に座ると鑑定者を批判的に見るようになることを知ってほしい。

 「CSI:」が正確に物事を伝えているとは思わないが、「CSI:」によって世間の要求水準が高くなってしまった。機械化された分析が当たり前と思われるようになり、人手による時間をかけた分析を評価する見方が薄くなっているように感じる。

 裁判では、写真、図表、チャートを駆使して鑑定内容を伝える必要がある。視覚化された世界になじんでいる陪審員は、これによって理解しやすくなることは確かだ。ただし、記憶力には限界があり、いかにうまく説明しても、頭には70%程度しか残っていないということも知っておく必要がある。

 使用する言葉にも気を配ろう。専門用語ではなく、分かりやすい言葉を使おう。裁判所の中で、一番の科学者は鑑定人のあなたであり、陪審員は、科学者が何を言うのかに注目している。

 質問されたときに、聞かれたことに直接答えないのはよろしくない。陪審員に科学を理解させること、自分のやったことを理解させることを心がけよう。

 鑑定人としての仕事を単なる生活費を稼ぐためのjobとして行うのではなく神から授かったvocationとして、使命感をもって行ってほしい。

 

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 AFTEの第1回の会合が1969年の2月26日に開催されたことは以前から伝えられていた。そして、その開催場所はドレーク・ホテルかと思っていたが、この式次第を見ると、開催場所はシカゴ警察署の会議室の514号室であることが分かる。

 裏表紙には、「科学的犯罪捜査研究所 1930年」のヘッドスタンプ風の図案が見られる。表側の表紙の比較顕微鏡写真と同じ大きさの円形にデザインされている。

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 式次第のページを見ると、午前中にビジネス・ミーティングが持たれ、昼食後に7題の技術講演があり、その後休憩をはさんで学会設立について1時間討議している。そして、右側のページにはAFTEの設立を目指す会議であると記されている。

 そして、1969年2月27日には、ノースウエスタン大学法学部のマコーミックホールのゲッツ法廷で、模擬裁判を行うと紹介されている。まさに歴史的な式次第である。

(2011.6.25) 

 
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