訳者の私的画像集41


マグカップ・コレクション6 ATFのアキレス計画のマグカップ

 第2次世界大戦後長らく、多くの拳銃が、アメリカから国内に違法に持ち込まれてきた。一般に所持されている拳銃の量が圧倒的に多いのはアメリカであり、国内の非合法組織が所持しようとするのも拳銃であることから、これは当然の帰結であった。アメリカでは、銃器の所持は権利とされ、それを取り締まることは難しいとみられてきた。しかし、そのアメリカでも、犯罪目的で銃器を所持する権利は認められていない。権利が保護されている一方で、それを用いる犯罪の取り締まりは厳しく行われている。特に、9・11以降は、武器の移動に対する監視の目が厳しくなった。

 テロ対策が最重要課題となる前のアメリカでは、麻薬取引に絡む発砲事件が、治安維持上重要な課題であった。麻薬の密売人は弾倉容量の多い自動装てん式拳銃を使用することから、アメリカでは警察官の装備拳銃を回転弾倉式拳銃から自動装てん式拳銃へと変更した経緯がある。

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 この背の高い黒いマグカップは、アメリカの銃器所持の取締りの責を負うATFが、麻薬関連犯罪に使用される銃器の取締りの広報用に製作したものである。

 黒光りする大型のマグカップを右手で持つと見える場所には、A.T.F.の文字が金色で書き込まれている。

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 左手でマグカップを持つと見えるところには、ATFの特別捜査官のバッジがやはり金色で描かれ、その上に「アキレス計画」、下に「アメリカを守ろう」の標語が金色で書かれている。

 麻薬取引は組織が行う犯罪で、巧妙に隠された犯罪組織の実態をつかむことが難しい。取引対象である麻薬は、水に流してしまえば消し去ることができる。ところが、その取引に備えて携帯している拳銃は金属の塊であることから、麻薬と比べて消し去ることは容易でない。この種の犯罪に一旦手を染めたものの証しとして、拳銃が手元に残されてしまうのである。消し去ることのできなかった拳銃によって捜査当局にしっぽを捕まれてしまうことから、まさに拳銃は、組織犯罪に身を置く者にとってのアキレス腱となってしまうのである。

 このようなことから、組織犯罪を拳銃からあぶりだす取締活動は、「アキレス計画」と命名された。この計画は、議会の承認を得てATFが強力に推進することになった。犯罪組織が所持する拳銃は、正規に登録所持されたものではなく、盗難拳銃が使用される。よく調べてみると、犯罪に使用される拳銃は、正規に購入された後、盗難されるまでの期間が短いこのである。同じ人間から何丁も盗難さた拳銃が、犯罪に使用されることも分かった。拳銃を最初に購入した人物の名前はATFに登録されてしまうが、タイム・ツー・クライム(Time to Crime)が短い拳銃を、最初に購入した人物は、まともな購入者ではないことが分かってきた。

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 カップを下から見ると、糸底の部分は黒く着色されていない。中国製の表示が小さくされている。

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 アメリカ国民の税金で賄われている計画を、日本の組織犯罪の取締りに利用することは、それほど単純なものではなかった。その後、9・11によって犯罪対策からテロ対策へと軸足が変化して行くが、武器の密輸入の監視は、以前と比べてずっと厳しくなった。

 
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