マグカップ・コレクション10 国際傷害弾道学会のマグカップ
学会に限らず何の活動でも、その寿命が長いものと短いものとがあるのは世の常である。学会活動を長期間にわたって存続させるには、その分野の学問が発展し続けていくこと、会員数を維持できること、熱心な会員がいることなど、様々なことが必要となる。国際傷害弾道学会(International Wound Ballistics Association)は、銃器から発射された弾丸によって、人間や動物が負う傷害の程度や範囲を研究対象とする学会で、アメリカ陸軍の野戦病院の医師として、この分野の実戦経験の豊富なファックラー医師(Martin L. Fackler, MD)が中心となって、1980年代末に設立された学会であった。
訳者は当時、アメリカの貿易自由化の圧力のもとに、所持規制の撤廃を求められていた「内燃式釘打ち銃」の規制撤廃の是非に関する仕事もしていた。空気銃ですらまともな銃器として扱われないアメリカで、釘打ち銃が銃器として見られないのは当然だ、ただ、内燃式釘打ち銃は、当時の日本の基準と照らせば、携帯可能で、使い方によっては、十分な殺傷威力のある釘を打ち出せるものだった。その問題を、本家アメリカで問う講演を準備してから、休暇を取って3泊4日の旅に出た。
グレーの陶器製のマグカップには、左右のどちらの手で持っても、学会名の頭文字と学会の正式名称がオレンジバーミリオンをバックにして黒字で描かれ、その下に学会の連絡先が書かれている。
このマグカップは、学会講演の記念品であり、日本人ではただ一人しか持っていない貴重品となった。ただ、実用的なマグカップとして気に入り、その後10年間ほど、自宅でコーヒーを飲むのに使用した。白いカップは汚れが目立ち、あまり濃い色ではコーヒーの色が分からず、ちょうどいい色調のコップだったからだ。
このマグカップは、日本に1個だけではないにしても、数が少ないことは確かであろう。他にマグカップが沢山あることから、現在は使わずに保存している。
カップの底も、糸底の部分を除くとグレーに着色されている。中国製との小さな表示がある。
約10年という短命で終わった学会だが、形のある記念品として、このマグカップと、20冊弱の学会誌が残された。
日本人の感覚とは異なるファックラー医師の強い主張は、善良な人の銃器の所持が銃器犯罪を減らすというものだった。9・11は、善良な人が拳銃を持って飛行機に搭乗していれば発生しなかったという。善良な人は、犯罪者を射殺する権利があるという、アメリカの古くからの主張の提唱者だった。
当時の学会の主張は何であったのか?標準的な手法を用いて実験をすることの重要性、条件によって結果は大きく変化する、メンタルな面も合わせた総合的な分析が必要、など様々あったと思う。暇があったら見直してみたい。一時は活発な活動をしていた学会だったが、かってのホームページのアドレスは売りに出されてしまった。 |
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